更新日:2006/06/19(月) 23:06

大原→仲間川→御座岳→白浜

広大な河口の部落 大富

 大原の桟橋から北に歩いて15分。広大な仲間川の左岸、仲間橋の北に広がるこの移住地は、西表では割と規模の大きな移住地である。この付近一帯は、いわゆる「まざかい節」にある仲間村の廃村跡である。
 終戦後この土地に着目したのは、沖縄本島北部大宜味や久米島、地元竹富島などの人達で、開墾はマラリア等の障害により困難をきわめたらしいが、現在では1958年に、大富部落にパイン工場ができ、その後大富部落と豊原部落の中間に製糖工場ができ、パイン、キビの2農産物を主とした農業が行なわれている。また西表唯一の共同売店もあり、部落の人々の勤勉さがうかがわれる。
 言葉もすべて標準語で愛きょうがよく、親切で親しみがあり、また毎朝6時半からラジオ体操が行なわれるが、子供達は勿論年寄りの方まで参加するなど、りきりきとしている。部落内のサイト地としては、適当な所がみつからず、ほとんどの入達が民館を利用しているようだが、公共物を借りる時は、地元の人達に迷惑をかけないようキャンパーとしで細心の注意を要することはここに書くまでもない。この部落は公水道もあり、また仲間橋の舟着場の近くに湧水もあるので水には不自由しない。
 寄り合いでできた部落のほとんどがそうであるように、この部落も特に年中行事というものはなく、入植記念として、毎年11月に運動会を催すだけにとどまっている。
戸数100戸・人口466人

仲間川のぼり

 エンジンの音もけたたましく船は進む。ここ広大な仲間川河口、川の中程を走る小舟が小さく感ぜられる。後方を振り返ると、1968年に竣設された仲間橋が、広大な河口に長々と横たわり、車やバイクが時おり通る。前方には西表のジャングルが招くように口を開き、川の両側にはマングローブが広がる。しばらく進むと川は蛇行を始め、間近に迫ったマングローブの一本一本が、手にとるように見える。まっ黒に濁った川底は不気味であるが、舵を握る船頭さんは、さも川底が見えるかのように、右へ左へと船を操り、正規のルートを進む。
 出発して20分、右手にセメント柱の標織を見る。ウブンドルのヤシへの入口である。右手上方の山の斜面には、幾本ものヤシがそよ吹く風に葉をゆだね、仲間川を見降ろしている。船頭さんの話によると、「ここから15分も歩けばヤシまで行けますよ」と言うことであったが、この付近は道が荒れ、到底15分程度で行けそうな感はしない。標識から更に10分程さかのぼると、第一船着き場を右に見るが、現在ではほとんど利用されていず、この辺一体もかなり荒れている。湿地帯では、珍奇な亀として知られるヤマルコーザーがゴソゴソと動き廻り、直径十センチメートル程もある孟宗竹が生えている。
 第一舟着場を通過して十分程たつと、舟ではこれ以上さかのぼれない地点にさしかかる。これより上流は、岩のゴロゴロする谷川である。舟着場の右岸(舟着場の対岸)には、この植物の花が咲くと飢饉が来ると言われるヒメツルアダンがある。西表でヒメツルアダンの生えているのはここ一ケ所だけだと言うから、一見するに値するものであろう。舟着場には御座岳入口の道標がある。御座岳へ行くにはここで舟を降り、かなり急な坂道をl時間20分歩かなければならない。
 舟での仲間川のぼりはここまでであるが、更に上流へ足を延ばしてみるのもいい。と言っても上流への道は無く、川の中や河岸の密林の中をヤブコギしなければならないが、うっそうと繁る密林の中、広大な仲間川の上流を行くのも、少々冒険的な雰囲気が楽しめる。
 御座岳入口より50m程上流の、「仲間川上流へ」の道標で舟を降り、2〜3分ほど山道を歩くと、百葉箱の備え付けられた広場に出る。水は近いのでサイト可能な場所である。南海岸を思わせる岩場をピョンピョンと跳び歩いたり、腰まで水に浸りながら歩く。途中大きな水たまりがあり、自然のプールを思わせる。プールには小魚やエビが泳ぎ廻り、ごはん粒を落とすと一斉に群がる。舟着場より一時間も歩くと小さな滝が現われる。(我々はこの滝にミニカンビレーと命名した)高さ4〜5m、巾4m程の滝であるが、滝壺に降りることも容易であり、水遊びをするには絶好の場所である。ミニカンビレーから更に1時間、川の右手にサイト可能な広場をみつける(道標あり)これより上流にはサイトのできそうな場所はない。
 なにぶん川が近くを流れるので、万一増水するかもしれないということを心に留めておこう。これより先は、木の間を漏れる光も弱々しくなり、アマゾンのジャングルを想像させる。川面よりポツンとび出して咲く1輪の花、よどみに映る木々の顔、うす気味悪いが「密林の中」の実感が芯に迫まる。
 シダやツタを切り払いながら進むが、大河仲間川の上流はさらに上流へと続く。不気味さと魅惑を秘めて。

泳げない上陸用舟艇ヤマルコーザー

 腹部の甲にちょうつがいを傭えた特殊な陸ガメ、ヤマルコーザー。このカメは学名セマルハコガメといわれるもので、石垣島や西表島に産する珍奇なカメである。「アレッ」と思って手に取ると頭を隠し尾を隠し「アレアレ」足まで隠してしまった。外敵から身を守る堅固な砦である。
 ちょっと拾い上げてみよう。甲の周辺はほぼ長円形で背は丸みがあり、色は黒褐色である。ガッシリと締まった珍奇な腹の甲は上陸用舟艇を思わせるものがある。水陸両用ガメ?と思ったが自由に泳げないそうだ。
 「ためしてみよう」と考えたが溺死しては酷だ。それにしても珍らしいカメがいたもんだ。このカメはほとんど陸生で、山すその低湿地、河川の流域、沼、沢の周辺に多く見られ、ミミズ、メクラヘビ、樹木の種実、サツマイモ等なんでも食べるらしい。
 そういえば、仲間川流域の湿地帯で道を失ない偵察に出かけた時のことである。傍らの繁みで「ガサガサッ」と音がする。「すわ!ハブか」と一瞬ギクッとしたがなあんだ、例の上陸用舟艇が3〜4匹うずくまっていたことを思い出す。それにしても「悪いやっちゃ」。

大富→御座岳→白浜

 大富より現在建設中の中央縦貫道路を行く。仲間川への分岐点までの約一時間は、車道で何の変化もなく少々うんざりぎみであるが、時折り顔を出す仲間川の水面やマングローブが、その気持ちをいやしてくれる。大富より50分で西舟着橋へさしかかり、そこから上り坂10分で仲間川への分岐点に着く。分岐点といってもそこははっきりしたものではないので西舟着橋とウブンドルのヤエヤマヤシとの中間当たりに目安をつけ地膚がむきだしになった所のおりやすい地点をさがして仲間川へ下る。仲間川沿岸には、御座岳へ通ずる山道が走っている。
大富から船着き場
 さて、いよいよこれからは、西表のジャングルの妙味を満喫できるルートの一つに入る。はっきりした道もなく迷い易い所なので、御座岳登り口の道標のある所、あるいは仲間川上流の第二船着き場(これ以上は岩が多くて船が進めないのですぐわかる)につくまでは、マングローブ林やアダン群落と広葉樹林の生えた斜面との境目、いわゆる海抜0m地帯を行く訳である。途中そこを離れ、アダン、マングローブ林をヤブコギしようもんなら、時間の浪費と疲労だけで、一日を無駄にするはめになるから、ぜひ境目を歩いて欲しい。
 仲間川への分岐点から50分で第一舟着場に着く。途中ウブンドルのヤエヤマヤシ群も見ることができる。第一舟着場から約10分で浦内川と第二舟着場への分岐点に着く。右手の道は、現在建設中の縦貫道路を横切り、浦内川(古見の山小屋)へと続いている。我々は左の御座岳へと足を運ぶ、さらに10分位いくと道標に会うが、これを見落としてしてまっすぐ行けば沢に出てしまう。要注意。道標より左へ2〜3分行くと、営林署の道標の打たれた幅5m程の川に出る。川を横切って、また斜面とマングローブ林との境目を行くこと30分。第一舟着場より50分で御座岳登り口に着く。ここからはきつい上り坂が続き、約20分で、まず第二船着き場と御座岳の分岐点に達する。(ここは大富より仲間川を舟で逆上り、約45分で第二舟着場に着き、そこから15分歩いた地点である。)
 さらに上り坂は延び、1時間でやっと御座岳山小屋に達する。山小屋の収容人員は5〜6名が適当である。ここから白浜までは、約6時間もかかるので、急いでない方はこの小屋で、鳥のさえずる声や虫の音などを聞きながら、ロマンチックに一夜をあかすのもまたいいものである。
ゴザ岳へ
 山小屋より頂上一帯はゴザダケササなるものが生えており、間隔を置いて歩かないと、ササにはたかれたり、目をやられたりすることもあるので注意せよ。御座岳項上からの眺望はすばらしく、360度の視堺がきくというのもまた、御座岳ならではの魅力の一つである。北には古見岳、テドウ山。南には南風岸岳。はるか東には大富部落と仲間川河口のマングローブ林一帯。西には白浜の海が眼下にみわたせ、これらの景色は島を二分したような壮観さを抱かせる。「あぁ、絶景かな」
 頂上より起伏の激しい坂を50分行くと、仲良川の分岐点にさしかかり、さらに15分で波照間森との分岐点(右はカンビレーヘおりる。道標には稲葉とかいてある)であるが、持にこの分岐点に着くまでの10数分は、今までの坂にさらに拍車をかけ、あたかも1時間以上歩いているかのような錯覚をおこさせる、上り下りのきびしい坂である。分岐点より45分で山道最後のピークに達する。ここからは白浜付近や仲良川の河口が見え、一安心する。ピークより下り15分で林道に出るが、林道の手前はヤブで、今回我々の打ちつけた道標をみおとすと、しばらくの間あたりをうろうろするはめになるので要注意。林道といっても、最近は使用されてないせいか、土砂崩れが多く、3mほどもあるススキが間隔をおいて茂っており、半袖だと顔や腕中がきずだらけになるので、軍手を使用するなり、防備が必要である。
{{20060618175849.gif,leftht,ゴザ岳から白浜林道}}
 林道手前の道標より27分で水場に着く。これより先は水場が少ないので、もし、朝、御座岳山一小屋を出発したなら、ここら辺が昼メシ時だろう。それに白井峠までの27分の上り坂も腹ごしらえをしてから行くと、登り易いというものである。ここもススキの多い所だ。この林道も大富からの縦貫道路の上り坂と趣きがやや似ていて、東島峠までのだらだら坂は、縦貫道路を思い出し、うんざり気味。・・・林道より白井峠まで50分。白井峠から東島峠まで55分。東島峠から林道入口まで約50分で、ほぼ規則的に林道を2つの峠で三等分したかっこうになる。2つの峠とも見晴らしが良く、稲葉の田んぼが眼前に広がり、どこからともなく吹き付けてくるさわやかな風がいままでの労をねぎらってくれる。林道入口より右は祖納部落へ、左は白浜部落へ車道は続いている。祖納まで約1時間、白浜まで約30分で到着する。

ウブンドルのヤエヤマヤシ

 仲間川河口から約2qの右手。海抜50mから120mの地域に約200本のヤエヤマヤシの母樹が天にそびえたち、その下には、無数の稚樹が年々生育しつつある。生育地は、30度位の傾斜地で、地表は種々の樹木草本に被われ、昼もなお暗い程である。
 1961年には天然記念物にも指定されている。しかしこのヤエヤマヤシも中奥縦貫道路建設作業や、八重山開発の進展に伴い、乱伐されて減ってきており、母樹や稚樹が伐倒されて絶滅した例は幾多もあるが、ウブンドルはヤエヤマヤシの自生地であるし、仲間川畔にあって、風光をいやがうえにもひきたたせているので、大切に保護したいものである。